ヨーロッパの「後を追う」日本なのか
水島治郎【千葉大学教授】
2025年7月の参院選では自公連立与党が大敗したが、特にメディアを賑わせたのが、一挙14議席を獲得した新興政党・参政党の躍進である。自民党より「右」に位置する政党がこれだけの議席を得たこと自体初めてだったが、しかもそれが近年ヨーロッパ各国で拡大する急進右派政党の後を追う形で展開したことも、注目を集めた。近年、イギリスのリフォームUK、ドイツのAfD、フランスの国民連合など、急進右派政党が各国で支持を広げ、中には旧来の保守政党を圧倒する例も出現しているが、その掲げる外国人規制の強化と「自国民」優先の再配分政策などは、参政党の公約と共通する。私もヨーロッパ政治研究者の端くれとして、今回の参院選を普段以上の関心を持って眺めたところである。
そのなかで一つ気になったのが、選挙後に参政党の神谷代表が、次回衆院選で40〜50議席を獲得し、ヨーロッパ型の、4〜5つの小政党が連立を組む形で政権入りを目指す、と述べていたことである。イギリスもドイツも4〜5党連立ではない。日本で参照されることの多いヨーロッパ諸国のうち、その4〜5党連立が最もあてはまる国にみえるのが、(筆者の研究対象である)オランダである。
オランダでは2023年、急増する難民流入への対応をめぐって前政権が瓦解し、11月に総選挙が行われたが、インフレと生活苦が広がるなか、「難民ではなく国民に福祉を」と訴え、移民難民制限を説いた右派急進政党・自由党が第1党となった。そして翌2024年、自由党を含む4党連立が成立した。首相は自由党党首ではなく無党派の元官僚が選ばれたものの、新政権は自由党肝いりの政策である、移民・難民規制の大幅強化を開始したのである。
しばらく前まで「オランダモデル」といえば、ワークシェアリングによる時短と雇用確保や、労働者本位のワークライフバランスの推進、といった「豊かな社会」オランダを支える政策モデルをさしていた。しかし近年のオランダは移民・難民流入に消極的な姿勢に転じており、4党連立政権の成立がそこにダメを押した感がある。そのようなオランダが果たしてモデルといえるのか、どうか。
なお2025年6月、難民規制のさらなる強化を求める自由党は、他の与党の姿勢を不満として連立を解消し、内閣は瓦解した。4党連立の維持は、いうほど容易ではない。
オランダやヨーロッパの先行事例は、「アンチ・モデル」も含め、日本にとって「参考」となる多様な材料を提供してくれるといえよう。
(生活経済政策2025年9月号掲載)
