「女王蜂」型リーダーシップ
武田宏子【名古屋大学大学院法学研究科教授】
政治の世界で活躍する女性がなかなか増えないことの要因のひとつとして、「良い政治家」に求められる性質やふるまい方が「女性」に関するジェンダー・ステレオタイプと乖離していることが長く指摘されてきた。政治家として有能であるためには合理的に判断したり、対立を恐れずに強いリーダーシップを発揮して人びとを導くことが求められるというのが従来の理解であるが、こうした行為の仕方を実践する際には、「女性らしさ」に結びつけられてきた穏やかで感情豊かであることや周囲へと配慮すること、従属的であるといった性質はしばしば阻害要因となる。
他方で、アメリカや日本の実証研究によると、女性候補者が「男らしさ」として理解される性質を強調しすぎてもステレオタイプからの逸脱を批判され、男性有権者だけではなく、女性ステレオタイプに愛着を持つ女性有権者からも支持されないことがわかっている。したがって、女性が政治家として認められ成功するためには、「良い政治家」像とジェンダー・ステレオタイプに関するこの二律背反の間で、有権者に受け入れられるふるまい方を何とか見出し続けなければならない。
ジェンダーの観点から女性のリーダーシップについて言説を通じて分析したジュディス・バックスターは、イギリスで二人目の女性首相が誕生した2010年代の状況を踏まえて、「女王蜂」型のリーダーシップモデルの浸透を指摘している。女王蜂モデルの特徴は、組織の頂点として君臨する際に、構成員、特に男性幹部と連携するために女性らしさを活用する、男らしさと女らしさの混在性にある。こうした行為の仕方は、「女性」とリーダーシップの二律背反を架橋しようとする努力のあらわれとも理解できるが、同時に、このモデルには、組織内での成功は並外れた能力によると主張したり、他の女性が組織内で同様の地位を得ることには消極的だという傾向が観察される。
1年3か月という特に短い在職期間で実施され、自民党が大勝した先の総選挙において、衆議院での女性議員比率は歴史上最高を記録した前回を下回る結果となった。こうした結果には、大勝した自民党の女性候補擁立が低調であったことも関係している。自民党の女性候補者比率は12.76%で、2025年までに達成するとされていた第5次男女共同基本計画の35%という目標値を大幅に下回っただけでなく、前回総選挙の実績よりも低かった。
自民党で女性候補者擁立が進まないことを女王蜂モデルとの関連で検討することもできるだろう。ただ、そうした議論がなされる前段として、民主政治にとって望ましい政治的リーダーシップのあり方についての根本的な再検討が不可欠だと考える。
(生活経済政策2026年4月号掲載)
