logo

月刊誌紹介
月刊誌紹介
2026年
2025年
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年
2009年
2008年
2007年
2006年
2005年
2004年
2003年
2002年
2001年
2000年
1999年
1998年
1997年
明日への視角

孤独のデモクラシー

宮本 太郎【中央大学法学部教授】

 内閣府の調査では、単身高齢者の4人に1人が日常ほとんど誰とも口をきいていない。孤独・孤立は、当事者にとってもっとも辛いことで、健康へのダメージも大きいことが知られる。自治体にとっても、健康寿命延伸を妨げ、トクリュウ犯罪の格好のターゲットを生み、孤立死を怖れる家主は部屋を貸せなくなるなど、様々な分野で行政課題の推進を困難にする。にもかかわらず、自治体にとって孤独・孤立はたいへん手のつけにくい問題だ。
 いかなる場につなげればよいかということもあるが、実はそれ以前のところに難しさがある。孤独になっている人、とくに男性高齢者は、事情を察知した福祉関係者などが訪れても、そのような働きかけ自体に強く反発することがしばしばだという。自分は孤独なのではなく、孤高なのだと誰しも思いたい。
 ハンナ・アレントは『全体主義の起源』のなかで「孤高」(アインザムカイト)から「捨て置かれていること」(フェラッセンハイト)を区別した。捨て置かれている人は、日常を他者と共有できないゆえに、曖昧さに満ちた複雑な世界を受け入れることができない。なぜ現実が厳しいか、単純で「首尾一貫した説明」を求め、「次から次へと推論をおこないすべてを最も悪く考える」。こうして陰謀論クラブが出来上がる。
 さらにそこにアレントの時代にはなかったSNSというツールが加わる。事態を過度に単純化して描きだし、「犯人」を特定し、その物語のなかに高度なアルゴリズムで囲い込む。孤独が生み出す心性との相性は抜群で、どのような結果にむすびつくかは火を見るより明らかだ。
 その一方でアレントは、「首尾一貫した説明」を求める人間の悟性を評価もしている。ポピュリズムがいわれるが、複雑な税制や社会保険には関心も寄せず、業界団体や有力者からいわれるがままに投票していた人が、Youtuberの「解説」に耳を傾け、切り抜き動画で政治家の姿を追っているのだ。一面では民主主義の進展ではないか。この進展をいかにほんものにできるか。
 ちなみに、孤独であることを認めず孤高を自認する筆頭は元教師らしい。「首尾一貫した説明」にとくにこだわってきた政治学教師の場合、老後はかなりアブなそうだ。

生活経済政策2026年7月号掲載